2001年6月12日・シネマライズ

6月12日 最終回上映終了後、シネマライズにおいて『ディスタンス』の第1回ティーチ・インが催されました。 おいでになれなかった方のために、このサイト上に採録します。





是枝 : こんばんは。たくさんお集まりいただいてありがとうございます。監督の是枝です。

ARATA : 水原敦役のARATAです。

是枝 : 『ワンダフルライフ』の時にも、観ていただいた方と話をする機会を何度か持たせていただきました。今回も是非やりたいと僕も思っていたし、ARATA君からもティーチ・インはないんでしょうかと話があったので、また2人でやることになりました。

もともとこの映画は、『ワンダフルライフ』を終えたあとに、ARATA君・伊勢谷君となにか新しい映画をやろうということであまり方向性を決めずに撮影だけスタートしたんですが、半年ぐらい経つうちに形を変えてずいぶん複雑な映画になりました。スタートから関わってみて、今回の映画についてはどんな感想をARATA君は持っていますか。

ARATA : 友介と2人での撮影が2年前で・・

是枝 : そう2年前の夏。

ARATA : それから半年以上たって『ディスタンス』の最初のプロットができあがって。自分としては、友介と2人での撮影では、自分と友介の微妙な距離感があからさまで、そこで自分がより理解できたというのがあったんで・・

是枝 : もともと2人のまったくタイプの異なる青年の違い、距離を描こうとスタートして、結果的に話はずいぶん変わったんですが。いま見るとやっぱり、神を信じて向こう側にいった人とこちら側に残った人との距離だとか、残された5人の、立場は同じだけど事件に対する想いが違っている距離だとか、最初に描きたいと思ったテーマは残っていて、そのへんはARATA君、伊勢谷君の主人公を通して描けたかなと思っています。

映画を作って思うのは、劇場を出た後にすぐに忘れてしまうのではなくて、皆さんの中で映画が違う"はじまり方"をしてくれたらいいなと。そういうふうに日常生活に引っ張っていってもらいたいなという気持ちがあって。そういう映画を作りたい、と。こういう時間を持つことが「お土産」を持って帰ってもらうきっかけのひとつになればいいなと、僕自身は思っていますので、感想でも質問でもどうぞ。


男性1 : 敦はなぜ最後にあの場所に戻って橋を燃やすという行為を行ったんですか?

是枝 : なぜだと思いましたか?

男性1 : 敦が怒りを感じていて、その怒りを橋を燃やすという行為で浄化したと思った。

是枝 : 面白い意見ですね。他の意見の人はいますか?

女性1 : それに関して、最後に敦が「父さん」といいますけど。監督は敦と父の距離をどう考えているんですか?

是枝 : あんまりこの映画、物語をわかりやすく進めていないので、物語がわからなかったという人がいるかもしれないなと思いながら今話しているんですが。例えばARATA君がやった役とりょうさんがやった役が本当に姉弟なのか、言葉として映画の中で語ってはいないので、見る人によってわからないところがあるし、父との関係もあんまり明確にはしていないんですよ。僕としては、この映画がどんな映画かと言うと、消化しきれない問題として父との関係があって、それゆえにいろんなところで擬似的な人間関係をつくりながら生きてきた敦が、最後に一言だけ肉声を発する、それにたどり着くまでの物語ととらえていた。最後の行為についていろんな人に意見を聞くと、否定的にとらえる人もいるし、前向きだと感じる人もいる、非常に絶望的だという人もいて、人それぞれとらえ方が違うんだなと思っています。答えになっていないですね。(笑)敦が映画の中で「サイレントブルー」という時間について話すところがあるんですが、実はあれはセリフがあったわけではなくて、終わりと始まりについて好きにしゃべってくださいとARATA君にお願いをしたら彼の中から出てきたやり取りで、それがこの映画が描こうとしていたある感情だったり時間だったりというものとすごくうまくリンクしているなと思った。最後の燃やすという行為は、始まりであって終わりであって、決別であって出会いであって、いろんな二重性をこめたシーンとして作っています。だからいろんな意見があっておもしろいなと。

男性1 : 怒りはありましたか?

是枝 : あのシーンを撮ってるときはどんな感情を持っていましたか?

ARATA : ある意味、決別。父親と決別して自分の人生を前を向いて歩いていけるように。そのきっかけが桟橋に火をつけること。「父さん」という言葉は虚構の中で生きてきた自分との決別であり、父に対するトラウマとの決別。父親を乗り越える。その瞬間があのシーンだった。だから怒りというのはその要素としてあったのかもしれない。

 
         
       

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