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言行不一致

2004年2月26日

2月8日の亜貴さんの質問に答える形で少しだけ今回のイラク派兵についての僕の考えを述べます。「なんだかんだ言っても、もう行っちゃうんだし、反対したってしょうがないんだから、頑張ってこい、無事に帰ってこいって応援しようよ」ということで、たぶんこのところの世論調査での派兵賛成の割合が増えているんだと思うんですが、僕はそのような(しょうがないじゃない)という気分で反対から賛成へ変わってしまうという情緒的反応が受け入れられないんです。情緒は派兵の根拠にはなり得ないと思うんです。それは結果として生まれたものでしかないと思うんです。だからあたりまえですが、たとえ世論調査で100%の人が賛成にまわっても、そのことと派兵自体の正当性の根拠とは全く関係がないということです。今、現在だけの情緒的な感情や判断に流されないためには、きちんと自分の中で時間を遡ってその行為の正当性を確認しないといけない。くりかえし。

その意味では今回の派兵には、遡れば遡るほどまったく正当な根拠が存在していないと思うんです。「国際貢献」とか「テロに屈するな」とか、抽象的なスローガンを後づけで色々持ち出していますが、結局のところなんで派兵するかと言えば「アメリカにそうしろと言われたから」でしかないと思うんです。その程度の打算的な根拠ですよ。だから、そんな美化した言葉で語ったりしちゃいけないと思うんです。

そして、他国に軍隊を送り込む、それがたとえ直接的には戦闘を目的とした派兵ではなかったとしても、そのような行為がこんなに簡単に、その程度の根拠で事後承諾されて良いわけがないと思っています。

亜貴さんのメールの中で「反対するだけなら誰でもできる」「他に何ができると考えていますか?」と問われているのですが、僕が今その問いに答えるとすると「それでもあくまで反対し続ける」ということが、僕にできることのまず一歩目だと思います。だからこの文章も書いています。そして、実は、「反対し続ける」という行為は誰にでもできることではないと思っています。だから僕は暴力的なまでの情緒の洪水に抗して、「それでもなお北朝鮮への経済制裁を支持しない」と言い続ける一部の政治家は、偉いと思うんです。にわか拉致議連の人たちよりよっぽど言動に首尾一貫性があります。それは政治にとって最も大切なものの一つだと思っています。

100歩譲って「正当な戦争」というのがある、という立場で今回の戦争を考えた場合でも、アメリカのイラクへの「先制攻撃」を「正当」と認め得る根拠は、素人なりに勉強した限り国際法上も存在しません。これは間違いなくただの侵略戦争です。これを認めてしまったら、アメリカが「脅威」を感じたら(これも情緒です)戦争を仕掛けていいことになってしまいます(なってますが、既に)。だからたとえ「大量破壊兵器」が見付かったとしても、決してこの戦争自体が正当化されることはないはずなのです。

しかし、日本はそんな戦争を諸手を挙げて支持してしまった。
21歳の学生の方からのメールにあった「戦争を肯定してしまった以上、派遣しなければならないのではないか」という意見には一理あると僕も思っているのです。ただし、その場合イラクに送られる軍隊は「占領軍」と呼ばれるべきだと思うのです(たとえアメリカ軍の戦争行為に直接的には協力していなくとも)。でもそうは言わない。「人道支援」だと言う。この嘘が僕はどうしても受け入れられない。「人道」などという美しい言葉を使う資格が、果たして、今回の戦争を支持した国にあるのかどうかということを、まず自らに問うべきだと思うんです。この言葉を使う資格は、少なくとも戦争に反対した国にしかないんじゃないかと僕は思うんですが,いかがですか?

だから日本がイラクに派兵するのであれば、小泉首相はそんなソフトな嘘にくるまずに「アメリカは正しい戦争をしたのだから、そのアメリカと一緒に占領軍として派兵して治安維持に参加しあわよくば戦後復興の『経済支援』で石油利権のおこぼれにあやかりたい!」と言うべきだと思うのです。支持できるかどうかは置いておくとして、彼のしていることはそういうことなのですから、言と行を一致させるのであれば、そう言わざるを得ないでしょう。

にもかかわらず、<非戦闘地域>での活動だという。これは自分たちで言い出した派兵のルールですよ。でも武器は携行するのだと。テロは戦闘行為ではないとか。アメリカの武器も運ぶかも知れないとか。で、自衛隊が行ったところが非戦闘地域だとか(なんのこっちゃ)。言ってることとやろうとしていることがこれだけ不一致な事態というのも珍しいと思うんですが。その不一致がですね、僕がどうしても支持できない根拠なのです。

反対し続ける以外に何ができるか?という問いに具体的に答えるなら、僕はこの戦争や派兵を支持しない政府の実現の為に自分の行使し得る権利(選挙権)を行使します。そして、ここから先は半分夢想ですが、その政府がきっぱりと「アメリカのイラク侵略戦争不支持」を打ち出し、今後このような形での先制攻撃による非人道的な他国への侵略は、たとえ相手が北朝鮮であっても2度としないようにアメリカに提言をする。もしそのようなことが起きたとしても、戦費はいっさい負担しないと圧力をかける。そのような形でアメリカがこれ以上世界を破壊し続けない為の抑止力として世界に貢献する。そして、もし仮に国連がそれを「正当な戦争」だと認めた場合でも、その戦争に日本の軍隊を送り込むことはせず、あくまで非軍事的な国際貢献に徹する。そのような形での国際貢献と軍隊のあり方(もしくは軍隊の否定)を明文化した憲法を国民投票によって選択し直す。その上で、そのルールに厳密に従って(つまり、現在のような拡大解釈の連続によってなしくずしにするのでなく)、世界の中で日本にしか出来ない役割を果たしていく。それは神戸の震災での経験を生かしたイランの大地震への医療支援であったり、いくらでもあると思うのです。ここまでやってはじめて僕は「人道支援」という言葉を欺瞞でなく使えると思うのですが、どうでしょうか。これなら言と行は一致していませんか?

以上がイラク派兵に関して僕が考えていることです。どうでしょうか?非現実的に聞こえますか?僕は決してそうは思っていませんが…。

gomaさんのメールにあった犬養道子さんの「花々と星々と」「ある歴史の娘」。とても面白そうですね。読んでみたいと思います。ありがとう。

是枝裕和